1900年:本当のメイド物語

ヴィクトリア時代

イギリスのヴィクトリア女王が63年間もの長い在位の後亡くなったのは1901年の1月です。ということはほぼ世紀1900年が古い時代の最後の年だということです。世紀の変わり目である年がイギリスでの旧時代と新時代の変わり目だということでとてもわかりやすくて良いです。

イギリスのメイドは失業対策

The Unknown History of England’s Domestic Servants

というBBCドキュメンタリーを見ました。

このBBCのこのドキュメンタリーは日本で人気のある「メイド」のモデルになったイギリスの家政婦の歴史の背景と移り変わりを詳しく説明しています。産業革命生み出された少数の富裕層と多数の貧困層ができてしまったイギリスでは1800年の中ごろから都市にあふれてしまった最下層の貧困層とその子供達を救済する機関、ワークハウスを設立しました。後援者たちは教会の慈善団体や政府の関連機関です。街にあふれていた失業者や孤児達を集めてワークハウスに収容し仕事を教えました。男性は大工、靴作り、服作り、女性は料理、裁縫、掃除などです。小さすぎる子供達には仕事を教える前にまず読み書きを教えました。そしてそこで一定の技術を得た人たちはイギリス中の中流や上流家庭へ家庭内被雇用者として送られてゆきました。

この失業者対策はいろんな意味で当時のイギリス社会に合理的な解決策だったのです。最貧民の人たちに住む場所と食事を与えることができる。役に立つ仕事の技術を覚えることができる。礼儀作法を覚えることができる。中流や上流家庭の屋敷の中の安全なところで生活ができる等です。

(2分から3分ぐらいに出てくる)お屋敷の主人は当時のその地域でも指折りの大富豪でした。その屋敷では主人夫婦と9人の子供達合計11人に対して、30人の住み込みの使用人がおり。その他彼の所有する土地で働く50人の使用人もいました。

メイドの仕事

家政婦の仕事は朝5時から夜10時まで。週7日勤務。寝ている時以外は全て仕事の時間です。しかしたまに日曜日に午後に休みを取ることができました。大きな屋敷の中では主人側が住んでいる場所と使用人側が住んでいる場所が明確に分かれています。それらはカーペットの色や壁紙でわかります。

一番悲惨な仕事は主人側家族の部屋から便器(18:40秒頃)を持って来て綺麗にする作業です。さらに悪いことにその入れ物がとてつもなく重いのです。(日本は江戸時代から便所がありました?糞尿を回収する産業があったようですが。)メイドをしていたのは10代の少女も多かったためこれは身体的にかなりきついしごとでした。

家庭内使用人を送り出した教会側と雇用主は手紙のやり取りをして、仕事先に送り出した人たちがその後どうしているか細かく記録を取っています。その記録を今でも見ることができるのです。イギリス人はこのような記録はとても大切にしてます。雇われていた家庭内労働者達の多くは帰る実家がない人たちだったため、中には住み込みで一生涯過ごした人たちもいます。

当時の若者たち

このような困難な労働環境の中でも若い人たちはそれぞれ自分の人生を切り開いてゆきます。当時かろうじて休みが取れる日曜日の午後の一番の人気のある過ごし方は公園に行くことでした。そこで恋人を見つけたり、デートの相手と会って過ごしました。当時は若い軍人達とデートするのが流行でした。その中には同じワークハウスで幼馴染だった恋人達もいました。

家庭内労働者の数は当時平均130万人ぐらいもおり、どんな産業より大きな雇用形態でした。当時はメイドをしている若い女性は社会の大多数を占める一般人の間ではごく普通のことでした。事実この番組の解説をしている女性の両方の祖母もメイドだったそうです。

そのような雇用形態に変化が出てきたのはビクトリア女王が亡くなった次の年に施行された教育改革です。義務教育の期間を伸ばし、もっと多くの人たちが平等の教育を受けることができるようになりました。

メイド業の衰退

前の世代より良い教育を受けた若い人たちはもうメイド業などやりたがりません。事務職、お店の店員、工場での仕事を選ぶようになりました。なぜそれを選ぶかといえば自分の自由に使える時間が多いからです。夜や週末を自分の好きなように使い、楽しい遊びに出かけてゆきます。こうしてだんだんと家政婦の数は減っていきました。ヴィクトリア時代は良い家政婦を探すのが大変だったわけですが、20世紀を迎えた頃から家政婦自体を探すのが困難になってきたのです。こうしてメイドはイギリス社会から姿を消してゆきました。

時代の変化につれて仕事の形態が変わります。当時一般的だったものが次の時代には時代遅れになります。失業対策、仕事の種類の変化。それぞれの時代にそれぞれの時代の常識と直面する苦難と問題があり、それにどのような対策をたてるか。いろいろ学ぶことがたくさんあるドキュメンタリーだと思いました。

メイドをしていた人は一般人も多い

この番組では触れていませんが、メイド・家政婦をしていた人達が全員、貧困層でワークハウス出身だと考えない方が良いと思います。当時はこのような家庭内使用人が一般だったということは一般的家庭の女性達も仕事先として働いていた可能性もあります。知識が豊富で信用の置ける女性はもっと良い条件や高い給料で働いていたと思います。通いの家政婦や交代で住み込みもいたかも知れません。

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