人物02:ジャコモ・カサノヴァ 1/3

ベネチア共和国の人

「カサノヴァ」って知っていますか?私が今回書くのは「ジャコモ・カサノヴァ」という18世紀に生きた実在のベネチア人です。私は塩野七海さんの書いた『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年』という本が大好きなのですが、もう少しベネチア共和国について知りたいと思っていました。そうして探している時に出会ったのが「ジャコモ・カサノヴァ」です。彼は1725年にベネチアで生まれ、1798年に死去。1797年に1000年続いたベネチア共和国が最後に幕を閉じるのとほぼ同時に人生を終わりました。

「ジャコモ・カサノヴァの自叙伝」 とは

彼は生前もヨーロッパの社交界ではスター的な有名人でした。有名になった理由は25歳の時にベネチアで本人に取っては身に覚えの無い罪で収容されていた難航不落の牢から脱出したからです。その後も長い間有名人でいられたのはその一点以外にもスター性のある特徴があったからです。身長188センチの長身と優れた容姿、数ヶ国語を自由に操ることができる頭の良さ、そして社交界で生きてゆけるために必要な優雅なマナーを身につけていたからです。社交界の人たちがたくさん集まっている中で注目され、お近づきになりたいようなスター性を持った人だったのです。それともう一つの特質は有名なプレイボーイでした。

これは彼が生きていた当時のことです。これだけだと時代の寵児として生きただけになります。しかし彼の存在が後世に意味を残した理由は別のところにあります。それは彼が書いた膨大な量の自叙伝なのです。何がすごいのかと言いますと、彼の人生を非常に綿密に克明に書き記したため当時のヨーロッパ社会の生活、風俗が非常に良くわかり、歴史の資料としても第一級の価値を持っているからです。

日本語では「河出文庫」の本があります。彼が生きたのは産業革命以前のルイ15世の時代なのですが機械文明が発達していなくて全て手作りの当時の生活の様子が非常に詳しく書かれています。移動のための交通手段としての馬車、どのように手配するか、乗り合い馬車か、金がある人は馬車を買って人を雇って移動します。女中の手配の仕方や雇い方まで書いています。男性が女性に贈り物をする時のアクセサリーの選び方。服の特注の仕方、当時流行っていた服の形や粋な着方、当時の人たちの価値観等、も書かれています。彼自身が当時の流行や服の着方等にとても繊細な観察眼を持っていたのがわかります。

当時のヨーロッパの上流社会の有名人についても会った時の印象等も書いています。ドイツの王様、ロシアのエカテリーナ二世に会った時のことも書いています。反対に彼に会った有名人達がカサノヴァに会った時の印象も調べれば記録にあります。

読んでいて思ったのは長い、とにかく長いです。「河出文庫」の本で一冊400ページぐらいの本が全部で12冊あります。そして出てくる人の数がとても多いので記録をつけていないと誰が誰だったかわからなくなります。彼自身が会った人の特徴や何をしたかまで覚えていたのに驚嘆します。人物の数に混乱をしますが私は産業革命以前の当時の生活がとても詳しく書かれているのでそちらの描写の方にとても魅了されてしまいます。演劇、映画、舞台、漫画、小説等の時代考証の勉強をした人にはとても役に立ちます。

自叙伝を書いた理由

なぜこんなに詳細で膨大な自叙伝を書いたかという理由です。それは彼が過去に華やかな人生を送っていたのを知っているある貴族が老年になった彼に自叙伝を書いて出版したらどうかと提案したからです。本の売り上げを年金代わりの収入にしたらどうかと持ちかけたからです。老年になり、運よく最低限の衣食住には困らない生活を手に入れたものの当時彼はあまり幸せではありませんでした。その不幸せな現実の生活からの逃避としてその後ほぼ十年間一日十数時間の時間を使って彼は過去の華やかな人生を思い出し紙の上に記録することだけを慰めに自叙伝を書き続けたのです。

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